一昨年から気に入って通っている近畿大学の世界演劇講座・・その番外編ともいったオフ講座が中崎のアートスペースで開かれ、クリストフ・マルターラーの作品を始めてみた。
マルターラーというのは、私には始めての名前だったが、ドイツ語圏では絶大な人気を誇る演出家で、毎年、昨年度上演されたドイツ語演劇(ドイツ・オーストリア・スイス)の中からベスト10を選びフェスティバルをするという演劇祭に十数年連続で出場しているほどだという。
一口に言えば音楽劇なのだが、ドイツの構造美学の要素とブレヒトの血を引く不条理と、ミュラーの血を引く美学とを彷彿させながら、なんともいえない面白さを醸している。歌は聖歌のような厳かなラインで俳優の歌唱はよく訓練されている。
どこかの待合に集う人々、壁からペイント文字がゆっくり落剥する。ベルが鳴ると、人々は小部屋に向かい手を洗い席につく。乱雑にコップが配られ、緊張感のもとティーパックが投げ配られ、音を立てながら皿が配られる、パウンドケーキのようなものをボロボロこぼしながら食べる人々。精神的な荒廃や崩壊を思わせる中に、半分尻を出したり、突如転んだりする滑稽な仕草が観客の笑いを誘う。
この世界演劇講座、行くと必ず何かのヒントやインスピレーションを貰うので、忙しさをかいくぐっていったのだが、案の状、今回のグリム2008においてのヒントも沢山いただいた。特に5章の小人のシーンでやりたかった雰囲気をそのままに再現したようなところもあった。
感想を求められて、上手く説明できなかったのだが、途中でふと思いついてこの作品は「積み木」の面白さだと考えると非常に上手く納得できた。黒髭危機一髪やぐらぐらゲームを思い浮かべながら、その緊張感を極度に高めた上で積み木の造形物を作るとして、少し傾いてもひやひやする、ぐらぐらするとはらはら面白い、ピッタリはまると嬉しくてたまらない、崩れるとそれはそれで笑える。積みあがると楽しくてたまらない。大切なのはその前提となる緊張感なのだが、ちょっとしたシーンにも莫大な練習量をかけたと思われるその静かな緊迫感が素晴らしい。
グリム2008にもこの緊張感が出れば成功するということが証明された。ナチス親衛隊の行進からドイツ建築の伝統から、フリッツラルグやドイツ美学が彷彿される。ドイツ演劇はやはり素晴らしい。
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