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ジャン・ジュネ(1980~1986)「女中たち」


悪に対して従順で乙女のような謙虚な憧れと恥じらいをもって崇めるジュネ。墓場に、徒刑場に、泥棒に、貧乏に、人殺しに、裏切りに、同性愛に、美しい賛美と崇拝の念を持ち、サルトルをして聖ジュネと呼ばしめた異端派作家。投獄されるも彼の文学を評するコクトーやサルトルによりフランス大統領の恩赦を得るものの、刑を免れちっとも感謝をしないというそらおそろしい人物。その聖ジュネの代表的戯曲「女中たち」・・・ラシーヌに影響を受けたという古典調文体が宝石のように美しい暗黒戯曲の骨頂・・・


ソランジュとクレールの二人姉妹は屋敷の女中。奥様の留守に奥様の衣類をつけて奥様ごっこをして遊ぶ毎日。いけない遊びに耽ったり、旦那様を陥れて徒刑場に行かせようと企てたり、奥様の嘆く様子を見て喜んだり、奥様を毒殺しようと試みたりしている。二人は健気で愛らしく、罪深さを、淫らさ、汚らわしさを憎み、愛している。遊びの中、二人は次第に追い詰められ、また追い詰められる自分たちに夢中になりすぎて自ら毒をあおって死んでしまう。


―二人の女中が奥様ごっこをしているシーン

ソランジュ 
闇は闇でも地獄の闇です!知っております。先刻ご承知ですわ、その代名詞は。あなたの顔を見ていれば、お答えしなければいけないことがそこに書いてあるのだもの、そ
う、わたくしはとことんまでやりとうしてみせますわ。二人の女中がここにいる―ご奉仕の召使い!その女中たちを軽蔑するために、もっともっと美しくおなりなさい。あなたのことはもう、わたくしども恐れてなんぞはいませんわ。わたくしどもは、一緒に包み込まれ一つにまじりあってしまっている、そうですわ、わたくしどもの臭い息に、あなたを祀るお祭りに、あなたに対するわたくしどもの憎悪のなかに!わたくしどもは今こそはっきり姿を現すのです。奥様、いけませんわ、お笑いになっては。ええ、絶対にお笑いになるのはいけませんね、わたしの口のききようが大袈裟だなんて・・・
クレール  
おさがり。
ソランジュ 
それもまた。ご用を勤めるためですわ、奥様。そこでわたくしの手袋と、わたくしの臭い虫歯のにおいを取り戻しますわ。静まり返った中でごぼっという、あの流しの音。あなたには花がある。わたくしには流しがある。わたくしは女中です。あなたでも、少なくともこれだけはお出来にならない、わたくしを穢すことはね。


ー帰ってきた奥様がだんな様の不幸を呪って悲しんでいるシーン

奥様    
もうおしまいだわ。「魅惑の花」って題のついた、この美しいドレス。わたしの一番美しい「魅惑の花」よ。可愛そうに。ランヴァンがわたしのためにデザインしてくれた。わざわざ、特別によ。そうだ。あげましょう。クレール、お前にプレゼントするわ、これ!
クレール  
まあ、奥様、本当にくださるのですか?
奥様    
もちろんですよ。主人に二言はありません。


―陥れたはずの旦那様が保釈され、奥様が喜びいさんで迎えに出て行った後のシーン。

ソランジュ
このまま、びくびくしながらここにいるなんて、あんただって考えちゃいないだろう。奴らはあしたになれば帰ってくる。二人揃って。手紙の出処もばれちまう。何もかもばれちまう。何もかもだよ!みえなかったっていうのい、あの女の光り輝いた様子が!階段を下りていくときのあの足取り!勝ち誇った歩き方!あの女の残酷な幸せだって?あの女の喜びはすべてあたしたちの恥からできあがっている。あの女の勝利はね、あたしたちの恥の赤い色さ!あの女のドレスの赤は、わたしたちの恥の赤い色なんだよ!あの女の毛皮のコートは・・・畜生、持って行かれたよ、毛皮のコートは!


―毒を煽る前に感極まって長いセリフを喋るソランジュ

・・・・ベットを直すために身をかがめました、かがめましたわ、自分の身体を、床のタイルを洗うため、野菜の皮をむくために、戸口で立ち聞きするために、この目を鍵穴にこびりつけるためですわ。でも今は、背筋をのばして真直に立っている。しっかりと。わたくしは絞殺犯人。マドモワゼル・ソランジュ、実の妹を絞め殺した女です。黙れですって?まぁ、奥様、本当にデリケートでいらっしゃいますこと。でも、奥様がお可哀想でなりませんことよ。奥様のお肌の白さ、繻子のようにきめこまかいすべすべしたお肌が、可愛いらしい小さなお耳が、か細いその両の腕が・・・わたくしは黒い雌鳥ですよ、・・・・・死刑執行人がわたしとともに歩いていくのよ、クレール!死刑執行人がこのわたしと!彼女に従う行列は、この界隈の女中という女中、召使という召使、彼らはクレールを、彼女を終の住処へと送っていった。・・・・みんながわたしに喝采を送る。わたしは血の気が引いて、そして今、死んで行く。なんて夥しい花!素晴らしいお葬式ではなかったこと、クレール。・・・無駄ですわ、奥様、わたくしは警察の命令に従います。警察だけがわたしを理解してくれます。警察もまた、抑圧された、非人の世界に属しているのですわ!


ジャン ジュネ, Jean Genet, 渡辺 守章
女中たち バルコン ?より

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