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月と六ペンス  ウィリアム・サマセット・モーム

モーム 「月と六ペンス」 月は手の届かないもの、高尚なもの(芸術)、六ペンスは取るに足らないもの、卑俗なものを表している。仏、世紀末の印象派画家、巨匠ポール・ゴーギャンをモデルにした創作小説で主人公の作家はモーム自身を連想させる。

駆け出しであった若い男性作家はとある夫人のサロンで文学や芸術に含蓄の深いストックランド夫人に出会う。彼女の夫であるストリックランド氏は株の仲介人であり、非常に凡庸で面白みのない人物であると婦人は言う。そのストリックランド氏がある日、突然、なんの躊躇もなく妻子を捨てて、ロンドンを消える。作家は彼を説得する役割を担い、パリでホテル暮らしをするストックランド氏を訪れる。ところが彼がそこで聞いた、ストックランド氏が妻子を捨てた理由はなんとも衝撃的なものだった。彼は平凡な日常を生きてきた壮年期にして「(絵を)やらねばならない」と言ったのだ


 物語は大きく三幕に構成されている前半はストリックランド氏がロンドンで平穏に暮らしていた頃、年若い画家を取り巻く環境や芸術、文学一般や人人の暮らし一般に関するややアイロニックな記述。そしてストリックランド氏が周囲に不可解な行動をとってロンドンから出奔するまで。

 中盤はストリックランド氏に住んでいた頃の話。青年作家はパリに住み、ストローブという才能があるとはいいがかたい商業画家の友人と懇意に付き合う。その友人画家は自身の絵は才能がないながら、類稀な鋭い審美眼を持っており、そのストリーブが誰にも認められていないストックランドこそ世紀の天才であると評したのだ。やがてストリーブは自分の妻をストリックランドに取られ、その妻は獣のような律しがたいエネルギーを持つストリックランドを前に不可解な自殺を遂げてしまう。その狂おしい憑依である才能のなせる業なのか、信念と情熱を燃やす悪魔のようなエゴイズムに犠牲になってゆく、凡庸な心弱い(心優しい)人人。

 後半はストリックランド氏の死後、彼の作品が世に稀な評価と価値を得てから、画家の最後の時を過ごしたミクロネシアのタヒチ島で聞き及んだストリックランド氏に関する記述。地の女を妻にし、森の奥地に篭って熱病にかかりながら、太陽の光に鮮やかに浮かび上がる色彩の渦をなんとか手中にしようと、盲目になりながら狂ったように絵筆をとりつづけ、小屋一面に絵を描いた執念の末期生活の描写。


モームは成功した作家であったが、しかし自らを通俗的作家であると皮肉っていたようだ。文学についての記述があり、文学の芸術性を問うている箇所で、文学とは恋愛沙汰などを大仰に取り上げたりして、結局のところつまらないものだと書いている。作家として彼自身の俗性に対する煩悶があり、また自身の表現に至高を求める苦悶、煩悶が彼にこれを書かせたのだと思われる。彼は女の低俗性、凡庸な人生の卑小さなどのについて触れそれは偉大なものに比べて、なんと下らないことであるかを痛烈に書きながら、しかしそういったものに囚われざるをえない凡庸な人間に対する慈しみを決して小さなものとせずに対比させ、それらの葛藤を骨太な慧眼で描いている。



モーム, 行方 昭夫
月と六ペンス


「画家と言わず、音楽家と言わず、すべて芸術家というものはその崇高な、あるいは美しい装飾によって、審美眼を満足させてくれる。またあの性的本能とも会い通じるものがあって一種の原始性というべきものを帯びてくる。いわば同時に彼自身という、より大きな贈り物を我々の眼の前にひろげて見せてくれるのだ」


「僕は言ってるじゃないか、描かないじゃいられないんだと。自分でもどうにもならないのだ。水に落ちた人間は、泳ぎが巧かろうと拙かろうと、そんなこと言っておれるか。なんとかして助からなければ、溺れ死ぬばかりだ」


?「天才、それはこの世で最も驚くべきものだ。しかし持ち主にとっては大きな重荷なのだ。僕らは彼らに対しては寛容でなければいけない、じっと我慢してやらなければいけないのだ」


?「こいつはりっぱだ」と彼が言った。「彼にとっちゃ、絵を描くことは地獄の苦しみだったんだ」


「私たちは幸福だよ。物を計画して、それを成就するということは、君、決して誰にでも許されることではないんだからな。私たちの生活は、単純で、そして天真爛漫だ。野心に悩むこともない。私達の誇りといえば、それはただ自分のした仕事を考えること、それだけだ。悪意も起こらなければ、羨望もない。モン・シェル・ムシュー・・・、世間ではよく労働のことを祝福というねぇ。意味のない言葉だよ、たが、ただ、わたしにはそれは最も切実な意味を持っている。私は幸福な人間だよ」




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