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ハイナ・ミュラー 「指令」

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ハイナ・ミュラーの「指令」はわずか50ページ足らずの内容でありながら、それはあまりにも難解であったため、またあまりにも素晴らしい官能的幸福の予感がそこにあり、またそれを数多く読み落としたのでは・・・という焦燥に駆られたため、読み終わるやいなやあわてて再び最初のページをめくる羽目になった戯曲である。

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ハイナ・ミュラーは世界の代表的劇作家ブレヒトの優れた遺産であるベリーナ・アンサンブルの後継者(劇作家・演出家)である。そのテクストは難解であり、その代表的作品「ハムレット・マシーン」は未だに舞台化において完成をみない難解な戯曲であり、日本でも数多くの舞台人の果敢な挑戦を受けている。

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ミュラーの戯曲は政治的思想背景を中心として語られる。よってこの「指令」も当時のまたは歴史上の政治的背景や思想を理解した上で読まなければいけない。だが、舞台化されたミュラーの作品を見ても、戯曲を読んでも、それが思想や文学に留まらない芸術の領域が多くを占めることは一目瞭然である。ある側面では政治的背景に全くの無知であっても感銘を受けるものがあり、それらの思想は人間の根本的真髄から滲み出たものであり、葛藤や戦いがあり、循環構造をとって個人と世界の双方に帰すからである。彼が真に世界的な戯曲作家の一人として演劇史上に名を残す所以だろう。


ハイナー ミュラー, Heiner M¨uller, 谷川 道子 指令

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(あらすじ)

・ ガルデックからアントワーヌという元ジャコバン派党員に時を経て手紙が届けられる。その手紙には指令が志なかばにして果てたことを知らせたものだった。

???? フランス革命が終焉し共和制が打ち立てられた後、ジャコバン党の党員であったドュビュソン、ガルデック、サスポルタスの三人が英国領ジャマイカに『奴隷制解放の革命運動を蜂起する』という「指令」を持ってやってくる。彼らは彼ら自身がかつてそうであった、奴隷主、奴隷監督、奴隷という仮面を被り、密かに潜入する。

???? 「初恋」という奴隷制の象徴である女が玉座に座り、「革命」という名の娼婦と浮気をしたとしてドゥビュソン責める。そうして奴隷制を母親の胎内と見立てて三人を誘惑する。

???? ダントンとロベスピエールになぞらえられたサスポルタスとガルデックが劇中劇を行う。ロベスピエールはダントンの首を取る、最後にロベスピエールの首も落ちてその首でサッカーをして興じる人々。引きずり落としゲームの茶番劇。革命とは死の仮面である。

???? 長いモノローグ。上司の指令を受けるべくエレベーターに乗った男は、エレベーターを降りた瞬間、荒涼としたペルーの田舎道に立っていることに気付く、指令はもはや何なのか分からない。自分自身の分身が自分に向って道を来るとき、指令が何か悟る、それは選択であり自らの中の戦いなのか?

???? 故国では革命は死のうちに終了し、ナポレオンによる君主制に再び帰る。指令の無効を知った三人は戸惑う。世界は政治主導(近代)から経済主導(現代)へと変わっていく。もはや政治的立場は権力を持たない。デュビュソンは現在ある世界の姿が笑われるべき滑稽な立場でありかつそれはありのままで美しくあることを知る。世界は美しく、それは裏切りの仮面である。彼は二人を裏切り、奴隷制の世界への居住を決める。彼の元に「初恋」がやってきて股を開く。彼は抵抗を試みるがやがてその中に吸い込まれる。

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第三世界、フランス革命、奴隷制、君主制、政治から経済、

モノローグの挿入、劇中劇の挿入、現在と過去、妄想と現実の行き来の中で個人的なものから世界へ、世界から個人への循環構造をたどり、私達に指令とは、革命とは、自由・平等・博愛とは、三つの世界とは、裏切りの美しさとは、政治とは、世界とは、個人とは、自己とは何かを問い続ける。

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あとがきにて訳者である谷川道子が優れた言い方でこの戯曲解説をしている・・・

「白人デュビュソンである「自分」(ミュラー)にとっての風景は「エレベーターの男」で、中央委員会のホーネッカーに(ブルガリア人女性との結婚の許可)を嘆願に行った時のエレベーターでの経験に反転するように。世界の把握は自己の位置の特定なしにはありえない。自己言及性と、世界との間のテクスト製は、同じメダルの表と裏なのだ」

 「虚実皮膜の間で、視点をヨーロッパから南米・カリブ諸島へ、フランス白人革命からハイチ黒人革命へ、東西問題から南北問題へ、革命思想からコロニアリズム/ポストコロニアリズムへと一挙に反転、相対化させる」

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ミュラーのテクストは生命力に充ち、妖艶で独自性がある。

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―初恋の誘惑

初恋 あたしの犬どもの歯で、あんたの汚れた肉に染み付いたあたしの涙の痕跡と、汗とあたしの快楽の叫びをこそげとってやる。犬どものナイフのような爪で、あんたの皮膚から、あたしの花嫁衣裳のための生地を切り取ってやる。殺された王たちの臭いのするあんたの息を、奴隷たちの話す苦悩の言語に翻訳してあげる。あたしはあんたの性器を喰らい尽くして、一匹の虎を産むわ。熱帯の雨の中を移ろうむなしい鼓動を、あたしに拍たせるだけの時間を貪りつくしてくれるような、一匹の虎を。

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ーサスポルタスのドュビュソンへの決別

サスポルタス 生あるものが闘い続けなければ、死者達が闘う。革命の心拍の一打ちごとに、死者たちの骨に肉が、血管に血が、死に生が戻る。死者たちの暴動は、自然の風景の戦争となるだろう。俺達の武器は森だ、山だ、海だ、世界中の荒野だ。俺とはアフリカだ。俺とはアジアだ。南北アメリカは俺だ。




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